東京大学の松永遼助教らによる研究グループはブレビバチルスとハイスループット相互作用解析装置を融合した「BreviA」を開発した。解析系では多サンプル並列処理をすることで、必要な時間や労力の大幅な削減を達成している。
BreviAでは、初めに分析したい抗体の遺伝子が含まれるプラスミドライブラリを作製し、それを用いてブレスビバチルス菌の形質転換を行う。遺伝子が導入された菌は寒天培地上でコロニーを形成する。
各コロニーはそれぞれライブラリ中の1種類の遺伝子がランダムに導入された菌の集合体だ。これらを96ウェルプレート各ウェルの液体培地に移して培養する。60時間培養後、遠心分離により培養液を菌体と培地上清に分離する。
菌体からは遺伝子を抽出し、そのアミノ酸配列を有した抗体が含まれている。これをSPR測定用のセンターチップに固定化し、抗原との相互作用解析を行う。ここでチップの表面には抗体に融合したペプチドタグち特異的に結合できる官能基が存在するため、さまざまな分子が含まれる培養上清の中から抗体だけを特異的に固体化できる。
BreviAの有用性を示すために、ヒトPD―1たんぱく質に結合する抗体「トリパリマブ」を基に、マウスPD-1たんぱく質にも強く結合できるような抗体設計に取り組んだ。まずトリパリマブの相補性決定領域の1つのアミノ酸残基をアラニンもしくはチロシンに変えた132種類の抗体配列から構成される遺伝子ライブラリを作製し、BreviAによる解析を行った。
その結果、抗体を構成するH鎖とL鎖のうち、L鎖の99―101番領域のアミノ酸を変えると、マウスPD-1への親和性が向上することが分かった。
そこで、その領域をさまざまなアミノ酸に変えた。48種類の抗体配列から構成される遺伝子ライブラリを作製し、BreviAによる解析を行ったところ元の抗体からたった1つのアミノ酸を変えるだけで、ヒトPD―1への親和性はあまり変わらずに、マウスPD-1への親和性が100倍以上高くなった抗体を取得することに成功した。
この手法で必要な情報は抗体のアミノ酸配列のみで、どのように抗原と抗体が相互作用するのかに関する事前解析は必要ないことから、さまざまな抗体の設計に適用することが可能だ。また、このような種特異性変換デザインは、創薬の観点で動物モデルを用いた有効性試験の人への外挿性を高めることに有効だ。