東北大学や大阪大学などの共同研究グループは、10マイクロメートルに集光した放射光を用いて、これまで困難であった反強磁性体の磁気ドメイン領域内の質量ゼロのように振る舞う「ディラック電子」の直接観測に世界で初めて成功した。省エネルギー素子や量子デバイスへの応用につながりそうだ。
電子が持つ磁気の性質「スピン」が交互に配列した外部に磁場を発生しない反強磁性体でディラック電子を発生できるというアイデアが10年以上前に提案されたが、微小領域の電子状態観測が難しいため研究の障害になっていた。
研究グループはNdBi結晶の反強磁性状態において、マイクロ集光角度分解光電子分光(マイクロARPES)という手法によって磁気ドメイン内の電子を精密に観測した。その結果、NdBi表面のディラック電子が、スピンの配列方向によって巨大な質量を持つ場合と全く質量を持たない場合があることを明らかにしている。
研究グループは「反強磁性トポロジカル絶縁体という新しい物質相を実証しただけでなく、巨大な電磁気応答や量子伝導現象を用いた省エネルギー素子や量子デバイスへの応用につながる」としている。