金沢大学の後藤典子教授や東京大学などの研究グループは16日、乳がん再発の原因細胞の取り出しに成功したと発表している。乳がん患者の予後の改善に貢献すると見込まれている。
■転移再発が死亡数増加の一因に
乳がんは日本人女性の9人に1人が罹患するとされ、死亡者数も増加傾向にある病だ。完治した乳がんが転移再発して亡くなるケースが一定数あり、死亡数増加の一因となっている。再発するがん細胞が抗がん剤などに抵抗性を示す仕組みやどの細胞が抵抗性かは不明であり、これらが分かれば死者数を減らせる可能性が高い。
研究では有効な薬がない「トリプルネガティブ乳がん」組織内のがん幹細胞集団内に潜む治療抵抗性のがんを見つけるため、NRP1もしくはIGF1Rに対する抗体を用いてがん幹細胞を濃縮した後、バラバラにして細胞1個を調査した。
その結果、濃縮された集団は5つに分けることができ、トリプルネガティブ乳がんに似た特性を表した群を「祖先がん幹細胞」と名付けた。解析の結果、この細胞は抗がん剤に対して最も抵抗性を示すことが判明。強心配糖体を投与することで、祖先がん細胞の治療抵抗性が弱まり、抗がん剤で死滅させられることが分かった。
研究グループは今後について「さらなる非臨床試験を実施後,臨床試験によって効果が証明され、術前全身治療の標準治療として強心配糖体の追加が実施されるようになれば、乳がん患者の予後の改善に大きく役立てることが期待できる」とコメントしている。