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シアノバクテリアによるバイオフィルム形成で合成系遺伝子が必須 東京薬大准教授らが解明

東京薬科大学の佐藤典裕准教授らの研究グループは、静置培養したシアノバクテリアでは塩ストレス下、細胞が浮上して水面でバイオフィルムを形成すること、その形成に新規脂質合成系遺伝子が必須であることを明らかにした。

シアノバクテリアは進化学的に葉緑体の祖先。一部の種では、薄層クロマトグラフィーの移動度を指標にしてトリアシルグリセロール(TG)の存在が報告されてきた。だが、その化学構造は決定されておらず、加えてその合成酵素遺伝子も不明であった。

研究ではシアノバクテリアの一種、淡水性の「Synechocystis sp. PCC 6803」がもつ、このTG様脂質について解析。その結果、中性脂質がTGではなく、光合成の電子伝達系因子であるプラストキノン類に脂肪酸がエステル結合した、アシルプラストキノン類の2種であることが判明した。

合わせて、アシル基転移酵素モチーフを示す、Synechocystisの遺伝子slr2103が、これら2種類のアシルプラストキノン類を合成する、新規の二機能性酵素をコードすることが見いだされた。

slr2103ホモログは、これまでにゲノム解析された300種以上のシアノバクテリアのうち、およそ3分の1種にのみ存在。そこに海洋性のシアノバクテリアは含まれていなかった。したがって、slr2103ホモログは高塩濃度など海洋の安定した生息環境下に適応したシアノバクテリアには必要とされない遺伝子である可能性が考えられた。

Synechocystisの野生株を静置培養時、塩ストレス下に置くと、細胞が培養液水面で凝集し、さらにそこで盛んに生育し、これにより水面の薄膜、つまりペリクルバイオフィルムが形成された。これは今まで報告例のない、新しいタイプの塩ストレス順化応答。

だが、slr2103欠損株ではそのような塩ストレス順応が不能で、培養液中に沈んだまま、細胞生育が抑制された。このことから、アシルプラストキノン類の合成系がSynechocystisの塩ストレス順応に必須であることが示されました。

また、沿岸性のシアノバクテリア、Synechococcus sp. PCC 7002でもSynechocystisと同様に2種類のアシルプラストキノン類が見出され、かつ、その合成遺伝子が二機能性酵素をコードし、また塩ストレス順応に貢献することが分かった。

研究グループは「研究の成果は、光合成微生物を利用した有用物質生産の経済化へつながる」としている。