【ポイント】
◎Bucco-mandibular space (頬下顎隙)は下顎骨の外側に存在する間隙
◎口腔癌における頬下顎隙への浸潤形態の新たな分類(パターン A:水平型、パターン B:垂直型、パターン C:拡張型)を開発
◎パターンBやCに該当する症例は、原発巣進行例が多く、病理組織学的切除断端が陽性もしくは近接する傾向にあり、生存率の低下を示した
◎術前MRIで本分類に即した浸潤形態を把握することが可能であり、本分類は予後予に有用であると考えられる。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎口腔腫瘍外科学分野の原田浩之教授と釘本琢磨助教らの研究グループは、同研究科口腔顎顔面解剖学分野の岩永譲教授、口腔病理学分野の池田通教授、歯科放射線診断・治療学分野の三浦雅彦教授との共同研究により、口腔癌における bucco-mandibular space 浸潤症例の解析を行い、その浸潤形態を3つのパターン(パターン A:水平型、パターン B:垂直型、パターン C:拡張型)に分類しました。中でも、パターン B および C は予後不良であることが判明した。この新たな分類法は術前 MRI で評価することが可能であり、予後予測に有用であると考えられる。この研究成果は、国際科学誌 Frontiers in Oncology に、10月12日にオンライン版で発表された。公表された研究成果は次のとおり。
【研究の背景】
近年、口腔癌に対する各種治療法は進歩しており、生存率は向上してきた。一方で、頬部に進展する口腔癌は予後不良であることが報告されており、一因として手術後の局所再発率が高いたと考えられています。
2017 年に岩永譲教授が提唱した bucco-mandibular space(頬下顎隙)は下顎骨の外側に存在する間隙で、下顎歯肉癌や頬粘膜癌では容易にこの間隙に進展することがわかっている。研究グループは、この間隙に進展する口腔癌の浸潤形態を分類し、さらに、その浸潤形態によって予後に差があるかどうかを検証した。
【研究成果の概要】
下顎区域切除もしくは下顎半側切除を行なった口腔癌 109 例を対象に解析を行った。その結果、bucco-mandibular space(頬下顎隙)への浸潤形態は 3 パターンに分類された。そのパターンは、パターンA:水平型、パターン B:垂直型、パターン C:拡張型と定義した。
術前 MRI による頬下顎隙浸潤の評価においては、感度:100%、特異度:84.2%、陽性的中率:83.3%、陰性的中率:100%で正診率:91.2%だった。
頬下顎隙浸潤症例は、非浸潤症例に比べると、原発巣が進行した症例が多く、頸部リンパ節転移の頻度が高いことがわかった。また、病理組織学的切除断端が陽性もしくは近接する傾向にありました。さらに、浸潤パターン別に詳細に調べてみると、パターン B およびパターン C に該当する症例で、垂直断端が陽性もしくは近接する傾向が顕著。また、パターンにかかわらず頬下顎隙進展が高度である症例は皮膚浸潤をきたすため、頬下顎隙は皮膚浸潤への進展経路となり得る可能性がある。
3年無病生存率では、非浸潤症例:86.7%、浸潤症例:66.0%でした。浸潤パターン別の3年無病生存率はパターン A:82.1%、パターン B:67.4%、パターン C:48.0%。