横浜市立大学の中島淳教授らの研究グループは17日に、協同乳業㈱との共同研究で、大腸がんの増悪化に関与しているフソバクテリウムヌクレアタム(F.nucleatum)に関する菌株レベルでの研究を全ゲノム解析により大幅に進展させたと発表している。大腸がんの予防や再発防止などの研究に進歩をもたらす可能性がある。
菌株レベルの研究には、F.nucleatumを分離して各分離株のゲノムを個別に解析する必要がある。熟練したスキルに加え、時間およびコスト面の問題があり汎用するには多くの課題があった。この研究では、これらの課題を解決し、検体からF.nucleatumを菌株レベルで識別する方法の開発を目指した。
具体的には、F.nucleatumを含む約半数の細菌が保有する免疫機構であるCRISPR-Casシステムに着目し、過去に感染を受けたファージ*4の遺伝子断片が保存されている遺伝子領域を標的としてPCR増幅し、菌株毎の感染歴の違いを増幅されたDNA断片長の違いとして検出することで、菌株を識別する手法(ジェノタイピング法)の確立を目指しました。
その結果は、ジェノタイピング法が、大腸がんに定着し増悪化に関与していると推測される口腔内F.nucleatum菌株の存在を明らかにし、その菌株の動態をモニターすることで、大腸がん治療後の再発予防などに役立つことを示唆した。
さらに、同一菌株と同定された大腸がん患者のがん組織と唾液から分離したF.nucleatum菌株ペアをそれぞれ全ゲノム解析し、一塩基変異の割合を調査。その結果、同一菌株ペア間の一塩基変異の割合は0.00036%–0.0038%で、別菌株間の1.228%–3.159%より大幅に少ない結果が得られた。
それにより、少なくとも一部の大腸がん患者は、口腔内と大腸がんに同一菌株由来のF.nucleatumが定着していること。すなわち、口腔内の一部のF.nucleatumが大腸がんの増悪化に関与していることが分かっている。
研究チームは今後について「細菌は菌株毎に特性や悪性度が大きく異なることが知られており、口腔内由来F.nucleatumの病態解明、特に大腸がん増悪化と関連を持つ菌株の同定やその機能解析などを進めていく予定だ」とコメントした。