東京医科歯科大学の内田信一教授らの研究チームは16日、これまで不明だった悪性高血圧に代表される急性高血圧症の死亡、緊急透析実施リスクを全国規模の入院データ解析で初めて明らかにしたと発表している。「高血圧患者の死亡率改善に貢献し得る結果が得られた」としている。
DPC入院データベースの解析を通じて、急性高血圧症の院内死亡率と緊急透析施行率の近年の動向について、全国規模の実態調査を初めて行った。研究は、2010~19年にかけて急性高血圧症で入院した5万316人を抽出し、発症率、死亡率、緊急透析施行率の動向とともに、リスク因子について解析した。DPC登録病名として識別可能な「悪性高血圧」「高血圧緊急症」「高血圧切迫症」「高血圧性脳症」「高血圧性心不全」の5つの病型スペクトラムを対象としている。
調査によると、患者年齢の中央値は76歳。6割弱が女性であった。その内、高血圧性心不全は2万2462人、高血圧緊急症は1万7907人、高血圧性脳症が6593人となっている。全体の年間発症率は10万人あたりのDPC登録全入院患者数に対して70人。10年間で見ると明らかな減少は確認できないが、高齢者や高血圧性心不全の割合は増加傾向にあった。
院内入院率は1.83から2.88%に増加しており分析の結果では、高齢、男性、低体重、悪性高血圧、高血圧性心不全、基礎疾患としての慢性腎臓病がリスク因子としてあげられた。一方で、規模の大きな病院での入院は死亡率の低下に関連することが分かっている。
体重に関して特に調べると、低体重群では脂肪リスクが高く、高体重群では死亡リスクが低下するという肥満のパラドクスが認められた。研究チームは「痩せている高齢者では、低栄養や身体的活動が低いために予備能が小さい傾向にある。体重減少やサルコペニアをきたすような基礎疾患を有している可能性が否定できないことが関係しているかもしれない」と指摘している。
研究グループは「必ずしも因果関係のみを反映した解析結果ではない点や、採血や画像検査データなどが不足していた点、退院後の長期予後を解析できない点などが今後の課題だが、低体重患者における分かりづらい体液過剰の早期発見や栄養状態への介入の重要性など、高血圧患者の死亡率改善に貢献し得る成果が得られた」と報告している。