山梨大学の熊田伸弘教授らの研究グループは16日、大塚化学㈱と共同でトリチウム水より軽水を吸着しやすい無機材料を開発した。研究を進めていけば、福島第一原子力発電所のトリチウム除去に貢献できる可能性もある。
トリチウム(T)は水素(H)の同位体であり三重水素とも呼ばれる。トリチウムは化学反応における物質の反応性の追究や化学分析を容易にできるトレーサーとして利用されているほか、将来の実現を目指している核融合炉の燃料としても用いられている。
トリチウムを含むトリチウム水(HTO)は通常の水である軽水(H2O)と性質が類似しているため,トリチウム水と軽水を分離することは困難だ。トリチウムを扱う施設では低濃度のトリチウム水については基準値以下に希釈にして排出する一方で、高濃度のトリチウム水については核融合炉の燃料や研究開発での活用する観点から、トリチウムを分離して再利用することが望まれている。
これまで多くの方法で軽水とトリチウム水の分離が試みられたが、大規模な設備や莫大なエネルギーが必要であるため実用化に至っていないのが現状。対して、吸着材を用いたトリチウム水の分離は、設備規模やエネルギーなどの観点から有望な方法の1つである。
これまでの吸着材はトリチウム水が吸着しやすく、トリチウム水の分離ではトリチウム水の吸着や捕捉が試みられていた。だが、今回の成果はこれまでとは逆にトリチウム水を含む水において軽水を吸着しやすい無機材料を開発できたことに意義がある。
研究チームは「この材料を東京電力福島第一原子力発電所の処理水からのトリチウム除去に応用することを期待するが、いまだ不明な点も多くさらに多くの検証実験が必要である」とコメントしている。