京都大学の白井理教授らの研究グループは、Gluconobacter japonicusという酢酸菌由来のフルクトース脱水素酵素(FDH)に関する構造解析に成功し、この酵素が有するユニークな触媒反応において重要な役割を担うアミノ酸を特定するなど、酵素反応メカニズムの詳細を明らかにした。
FDHは酢酸菌の呼吸鎖電子伝達系を構成する膜結合型タンパク質。電極を基質として認識できる酵素が電極と直接反応する「直接電子移動(DET)型反応」という非常に珍しい作用を実現できる。この反応は環境への適合性が高く、生体物質の検出に適した理想的なバイオセンサ(第三世代型バイオセンサ)としての応用展開が期待されている。
FDHはDET型モデル酵素として世界中で注目されてきた一方、そのDET型反応機構は未解明であった。今回、クライオ電子顕微鏡観察及び単粒子像解析を実施し、2.5 Å(オングストローム)の分解能でFDHの構造解析に成功。
この結果と電気化学、遺伝子工学の手法を組み合わせることで、本酵素の電極反応部位を特定し、酵素内のトリプトファン(Trp)という芳香族アミノ酸がDET型反応を促進していることを明らかにした。
さらに、数理モデルでFDHのDET型反応を解析し、Trpによる電子移動促進効果を定量的に評価した。この成果は、FDH及びその類似酵素における世界初の全体構造報告例であり、生体触媒を用いた新たなバイオデバイスを社会実装する上で、学術的かつ社会的な波及効果が期待されている。
研究チームは今後について「酵素工学や構造予測技術、機械学習などの手法も織り交ぜることで、触媒部位の基質特異性改変や芳香族アミノ酸のDET型電子移動経路への挿入などを実施し、有用化合物を高感度かつ高効率でセンシング可能な新規DET型酵素をデザインすることを目指す」としている。