徳島大学の石澤啓介教授らの研究グループは13日、医療ビッグデータ解析と疾患モデル動物を用いた基礎薬理学研究を融合した新たな研究手法により、血管新生阻害剤に関連して発症する動脈解離の背景因子について重要な知見を得ることができたと発表した。有害事象のリスク因子が解明されることで、安全な薬物治療への貢献が期待される。
研究グループは有害事象自発報告データベース(FAERS)から2004年3月~20年6月の報告症例を対象に、血管新生阻害剤またはその他の高血圧を惹起すると考えられる各種薬剤による血管疾患の報告オッズ比を解析した。
その結果、各種血管新生阻害剤使用症例で大動脈解離の副作用リスクシグナルが検出されたが、カテコラミン類やステロイドといった、血圧上昇作用が知られているその他の薬剤では必ずしも大動脈解離のシグナルは検出されていない。
さらに、診療報酬(レセプト)データベース (JMDC)に集積される日本国内400万件以上の症例の中で、2万0828例の血管新生阻害剤使用者が抽出され、さらにその中で 258例が血管新生阻害剤の初回投与以降1年以内に大動脈瘤もしくは大動脈解離を発症していた。
その要因を調べるため、薬の有無でどのような違いがあるか比較検討した。その結果、動
脈硬化や脂質異常症を診断されていた人に比較的発症しやすい可能性が示された。一方で、血管新生阻害剤投与以前に高血圧の既往があったか否かは、薬物治療開始後の大動脈瘤、解離の発症に影響を及ぼさないことが明らかになっている。
血管新生阻害剤は、投与前に高血圧に罹患していたか否かに関わらず、治療開始後に誘発される薬物特異的な血圧上昇作用を介して、大動脈解離発症をはじめとする重篤な血管系有害事象の発生リスクを高める可能性が示唆された。