東京理科大学の長嶋泰之教授らの研究チームは10日、電子と等しい質量をもつ「陽電子」をフッ化リチウム結晶表面に入射すると、フッ素分子正イオン(F2+)やフッ化水素分子正イオン(FH+)が放出する現象を発見したと発表した。新たな機能性材料の生成などに利用できると期待されている。
研究グループは、500eVのエネルギーを持つ陽電子をフッ化リチウム(LiF)結晶(110)面に入射すると、表面上からフッ素分子正イオン(F2+)やフッ化水素正イオン(FH+)が飛び出すことを明らかにした。これらのイオンを構成するフッ素FはLiF結晶中にあったもので、水素Hは、LiFには含まれていないが、装置中の残留ガスの中に含まれる水素が表面に吸着したもの。
固体に陽電子を入射すると、陽電子はエネルギーを失った後に、一部は表面に戻ってくる。LiF結晶の場合は、表面に戻った陽電子が結晶表面を構成するF2-を引きつけて結合状態F-e+F-を形成することもあると考えられる。
そうすると陽電子はF-イオン中の電子と対消滅するが、その電子が内殻電子の場合はオージェ電子と呼ばれる電子が放出され、その結果電荷が入れ替わって正のF2+となり、周囲のリチウム正イオンLi-との反発で結晶から押し出される。
研究グループは「法を様々な結晶に利用すれば、表面から結晶の種類に応じた分子イオンが脱離する可能性がある。この手法は、新たな機能性材料の生成などに利用できるようになると期待できる」と説明した。