神奈川大学化学生命学部の小川哲志プロジェクト助教らの研究グループは、を発見した。この酸化物が未知の5重ペロブスカイト型構造を有することを明らかにし、400度で優れた酸素吸収放出特性を示す酸素貯蔵材料であることを見出した。
大規模かつ省エネルギーの化学ループ空気分離CLASを実現するには安価で高性能な酸素貯蔵材料が必要不可欠であるが、低材料コストの従来材料の動作温度は500~700度であり、より低温で駆動する新規材料が望まれている。
Ba₅CaFe₄O₁₂ は化学ループ空気分離 CLASによる酸素ガス製造のための有力材料であり、酸素ガス製造のコスト削減とエネルギー効率の向上に大きく貢献するものと考えられた。
Ba₅CaFe₄O₁₂の酸素吸収放出特性を熱重量分析によって調べた。模擬空気中で温度を上げると、酸素吸収による急激な重量増加が見られた。さらに温度を上げると次第に重量が減少し、400度付近で急激な重量減少を示して元の重量に戻った。
冷却過程でも同様の重量変化が見られ、酸素吸収放出が可逆的であることが示された。Ba₅CaFe₄O₁₂は窒素中で合成されるため、結晶中に多量の酸素欠損を含んだ状態で得られる。この欠損部位へ酸素を取り込むことにより、酸素過剰型のBa₅CaFe₄O₁₂₊₈へと変化する。
昇温中のX線回折実験により、この重量変化と同じ温度で結晶構造が大きく変化していることが確認され、本材料の顕著な酸素吸収放出は結晶構造変化を引き金に起こっていることが明らかになった。
CLASを模倣して酸素ガス製造能力を調べた。本材料は模擬空気中370度において、1.2重量%の酸素を1.5分以内に吸収し、続けてガスを窒素へ切り替えると吸収した全酸素を3.5分以内で放出。
さらに、この酸素吸収放出挙動は10サイクルにわたって完璧な可逆性を示した。Ba₅CaFe₄O₁₂の酸素吸収放出量は、1日あたりの性能に換算すると材料 1キログラムあたり 2.41m3の酸素ガス製造能に相当し、既知材料Sr₀.₇₆Ca₀.₂₄FeO₃−δの性能値(0.81m³kg −¹)の約3倍であった。さらに、本材料の動作温度370度は、従来材料が動作できる温度より180度も低く、また製鉄所において未利用の排熱が存在する温度域であることから、本材料を排熱で駆動することによりCLASのエネルギー効率を革新的に向上できる可能性がある。