東京医科歯科大学の田中真二教授らの研究グループは11日、九州大学などとの共同研究で、非アルコール性肝疾患(NAFLD)関連肝がんにおける脂肪毒性への耐性獲得の原因が、KDM6B発現低下によることをつきとめたと発表した。
生活習慣病の増加に伴い、NAFLDに関連した肝がん患者の増加が問題となっている。NAFLDは脂肪性肝炎(NASH)から肝硬変に進行し、肝がんを発症するが、その詳細な分子機序は不明な点が多い。この発症機序の解明や新規治療法の開発が強く望まれている。
研究では、KDM6B発現低下がもたらす細胞機能の変化を解析するため、CRISPR-Cas9 systemを用いた遺伝子改変により、KDM6B欠損肝がん細胞を作成した。KDM6B野生型肝がん細胞は脂肪酸を過剰に負荷すると脂質が蓄積し生存できないが、KDM6B欠損肝がん細胞はその環境下でも生存可能であり、脂肪毒性に対する抵抗性を獲得していることが示された。
メタボローム解析の結果、KDM6B欠損肝がん細胞ではトリグリセリド(中性脂肪)の代謝が大きく変化していることが判明。さらに、遺伝子発現解析の結果KDM6Bは脂質代謝を制御する遺伝子の発現を増加させることが明らかになった。
その一例として、脂質代謝関連遺伝子のひとつであるG0S2は、細胞内に蓄積した中性脂肪を分解する酵素 (ATGL/PNPLA2)の働きを阻害する役割を持つ。KDM6B欠損肝がん細胞では、ヒストンの脱メチル化が起こらないことでG0S2遺伝子の発現が低下し、ATGL/PNPLA2の酵素活性が上昇する結果、細胞内トリグリセリドが分解されやすくなると考えられた。
この結果から、KDM6B遺伝子の発現が低下することによって肝がん細胞が高脂肪環境下でも生存可能となる脂肪毒性への耐性を獲得すると考えられる。さらにATGL/PNPLA2発現の抑制や酵素活性阻害薬の投与により、脂肪毒性への耐性が失われ、がん細胞の増殖が抑えられることが分かった。