大阪大学の武部貴則教授らの共同研究グループは5日、ヒトiPS細胞由来の立体組織「血管オルガノイド」を作成しそれを用いて、新型コロナウイルス感染によって血管内皮細胞に炎症が生じる「血管炎」が発症し、血栓形成が誘発されることを見出したと発表した。血管炎を予防する新たな薬の開発につながる可能性もある。
新型コロナウイルス感染によって生じる血管炎に類似した症状を再現することが可能なヒトiPS細胞由来血管オルガノイドモデルを開発することに成功した。
次に、オルガノイドを用いた解析によって補体代替経路と呼ばれる分子経路群が、血管炎の症状が強い人で特に上昇していることを見出した。さらに、人間の新型コロナウイルスの感染状態を模倣する血管を再構成した動物を用いて、抗体の動きを補う「補体代替経路」を薬理学的に阻害することで、血管炎の症状を緩和できることを発見した。
研究グループは仮説をもとに、補体代替経路の構成成分でもあるD因子に着目。網内系に移行した抗体がリサイクルされる仕掛けを施した長時間作動型の抗体製剤を用いて薬効を評価した。サルの新型コロナウイルス感染モデル試験を用いて、この抗体製剤は、血管炎に重要な経路を阻害することで免疫反応を弱め、血管保護効果を示すことを実証している。
研究グループは「補体代替経路を指標とした診断技術の構築や、ひいては、血管炎・血栓形成を予防する新たな治療薬の開発につながると期待される」としている。