自然科学研究機構生理学研究所と大阪大学産業科学研究所の研究チームは3日、光学と機械学習の融合的新手法によりトラウマ記憶に関わる脳神経細胞ネットワークを検出することに成功し、記憶形成に伴う変化をとらえ、精神的外傷ができていく仕組みを世界で初めて明らかにしたと発表した。
研究チームはエラスティックネットと呼ばれる機械解析に着目。その検出力の高さを生かした「トラウマ記憶を担う神経細胞集団を高精度で選別する手法」の開発に成功した。さらに、グラフィカルモデリングという最新の数理解析技術により、心の傷を担う神経細胞集団の中でそれらがどのように制御しあうかを算出して精神的外傷の実態を調べた。
その結果トラウマ体験後に新たに生まれる「トラウマ記憶の神経細胞ネットワーク」は、体験によって特定の細胞集団の内部結合が増加することでできていると判明。ネットワーク構造変化を解析すると、恐ろしい記憶を思い出す引き金となる「弱い電気刺激」に関する細胞と「音」に関連する細胞は、最初は無関係であったが、新たにネットワークを形成していることが分かった。
こうした結果から、トラウマ記憶は弱い電気信号に強く活動する細胞をハブとして「経験依存的ネットワーク」を形成するとした。研究チームは「恐怖体験中に強く活動する細胞の働きを抑えることができれば、PTSDなどによる弊害を抑えることができるかもしれない」とコメントしている。