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【研究最前線】理研が世界初の「遷移金属触媒」を開発 マウスの体内でがん治療に成功

理化学研究所の田中克典主任研究員らの研究チームは25日、血液中でも数日安定で大量の抗がん剤を体内で触媒的に生産できる世界初の「遷移金属触媒」を開発して、マウスの体内でがん治療を行うことに成功した。さまざまな疾患に対する新しい治療戦略として発展する可能性がある。

研究チームは、ルテニウム触媒の改良のため、塩素に代わる配分子を探索した。その結果、塩素をヨウ素に置換すると血液中で安定性と反応性が向上することを明らかにした。血液中でも触媒量で化学反応を促進できる、生体内化学反応に適した遷移金属触媒を発見したといえる。

次にルテニウムーヨウ素が触媒する化学反応の種類を検証。すると、分子内で環を形成する反応の他に、分子内でベンゼン環を作る作用や分子間で結合を形作る過程にも使えることが分かった。

さらにがんモデルマウスを用いて、ルテニウムーヨウ素を使った生体内合成化学治療の効果を評価した。ルテニウムーヨウ素では体内で触媒的に抗がん剤を合成できたので、顕著ながんの治療効果が見られた。

これまでの薬剤処方に従って抗がん剤をマウス体内に入れるよりも、がんの治療効果が高いことを発見した。がん細胞上で選択的に薬剤を合成して薬の濃度を局所的に向上させるためだと考えられる。

研究グループは「ルテニウム触媒の改良は、他のさまざまな遷移金属触媒にも応用できると考えられる。これにより、生体内で合成可能な分子の種類が広がり、生体内合成化学治療がさまざまな疾患に対する新しい治療戦略として発展する可能性がある」としている。