東京大学の岩本敏教授らの研究グループは21日、誘電率がゼロに近い値を示す「ENZ効果」と呼ばれる特性をもつインジウム錫酸化物(ITO)に注目し、実験解析および数値計算を行った。その結果、光通信の波長帯域でENZ材料の磁気光学効果が大幅に増強されることを明らかになっている。新たな磁気光学材料の開発にもつながりそうだ。
研究では、赤外の光通信波長帯でENZ特性を発現することが報告されているITOに注目し、磁気光学効果の解析を行った。酸素濃度を変えてスパッタリング法にてITO薄膜の作製を行った結果、通信波長帯の異なる波長でENZ特性を示すことを確認。
磁気光学効果の測定では、ENZ特性を示す波長付近でファラデー回転角のピークが認められ、誘電率がほぼ1となる波長付近でカー回転角がピークを形成すること判定された。数値計算の結果も実測データとおおむね一致していることから、ENZ特性を示すITO薄膜において、ENZ特性を示す波長近傍でファラデー効果が増強され、誘電率がほぼ1となる波長付近でカー効果が増強されることが実証されている。
この結果は、ENZの活用により、広帯域で動作可能な大きい磁気光学効果を示す新しい材料の実現可能性を示すものだ。研究グループでは、ENZ材料と強磁性体を組み合わせる材料の開発にすでに着手しており、ENZ特性に基づく特性変化を観察することにすでに成功している。
研究グループは「ENZ材料の新たな応用の可能性を拓き、新しい磁気光学材料の開発や光回路のさらなる高密度集積化の進展などENZフォトニクス科学のさらなる進歩にも貢献できる。また、強磁性材料との組み合わせにより、新しい磁気光学材料の開発が期待できる」とコメントしている。