東京医科歯科大学の前嶋康浩准教授らの研究グループは、歯周病原細菌「Porphyromonas gingivalis(P.g.)」から放出されるプロテアーゼであるジンジパインが、オートファゴソームとリソソームの融合に必須の分子「VAMP8」の分解を介してオートファジーを抑制することで、心筋梗塞後のリモデリング悪化作用を発揮していることを発見した。研究成果は歯周病や合併症の新規治療につながる可能性もある。
研究では、P.g.を感染させた培養心筋細胞を「蛍光ラベル法」と「クリック電子顕微鏡法」で観察したところ、心筋細胞内にP.g.が侵入してとどまっていることを確認した。次に、P.g.野生株が感染した培養心筋細胞の方が、P.g.ジンジパイン欠損株が感染した培養心筋細胞よりも細胞生存率が低下してオートファゴソームとリソソームの融合が阻害されることを見いだした。
また、オートファゴソームとリソソームの融合に関連するタンパク質であるVAMP8はジンジパインによって切断・不活性化されることと、ジンジパインによる切断部位のアミノ酸を置換した変異VAMP8(VAMP8―K47A)はジンジパインによって切断されないことを明らかにした。
続いて、P.g.を感染させたマウスを用いて心筋梗塞モデルを作成したところ、P.g.野生株感染群における死亡率はP.g.ジンジパイン欠損株感染群と比較して有意に高く、その死因が心破裂であることが判明した。
さらに、ゲノム編集技術によってVAMP8遺伝子を改変したマウス(VAMP8―K47Aマウス)と、オートファジー活性を測定するプローブタンパクを発現するマウス(TG―GEP―LC3―RFP―LC3ΔGマウス)を交配したマウスにP.g.野生株を感染させると、心筋細胞においてオートファジーの抑制が起こらなくなることが確認された。
また、VAMP8―K47Aマウスに P.g.野生株を感染させた心筋梗塞マウスモデルでは、野生型マウスモデルと比較して心破裂による死亡率が低下することも明らかとなった。
研究グループは「難治性の感染症である歯周病およびその合併症に対する新規治療の開発は社会における喫緊のニーズでありますが、研究成果はそのニーズに応える一助になるものと考えている」とコメントした。