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【研究最前線】がん関連線維芽細胞の新たな誘導メカニズム 順天堂大主任教授らが発見

順天堂大学の折茂彰主任教授らの研究グループは21日、乳がん内に存在してがんの悪性化を調節する働きを持つ「がん関連線維芽細胞(CAFs)」が腫瘍内に誘導される新たなメカニズムを発見したと発表した。今後、CAFsを標的とした新たな薬剤の開発につながる可能性もある。

CAFsは、がんの悪性化を促進する作用を持つことが知られる。だが、がんの増殖・進展過程で、正常組織に存在するCAFsが、がん内に移動するとなぜ悪性化を促進する性質を獲得してしまうのかは明らかになっていなかった。

研究では、健康な人の乳腺組織に由来する線維芽細胞をグルタミン含有及び不含有の培地で培養。両者の性質を比較した。その結果、グルタミン不含有では、CAFsで亢進しているTGF‐βシグナルが活性化していたことから、CAFsに類似した状態に誘導されたと考えられた。

さらに、この線維芽細胞を調べたところ、二つの特徴を発見した。一つ目は、グローバルヒストンアセチル化が低下していること。二つ目はmTORC1という細胞内のエネルギー代謝を調節するタンパク質複合体の機能の低下。

また、また、グルタミン存在下で培養された乳がんCAFsと正常乳腺由来線維芽細胞を比較したところ、ヒストン脱アセチル化酵素の高まりによるグローバルヒストンアセチル化の低下とmTORC1の機能低下という、グルタミン欠乏下の正常乳腺線維芽細胞で観察された二つの変化がCAFsでも確認された。

このことは、グルタミン欠乏をきっかけに正常乳腺線維芽細胞に誘導されるこれらの性質が、CAFsではグルタミン存在下でも安定的に維持されているということを示している。

次に、これらを実験的に回復させる処理を乳がんCAFsに施したところ、これらの処理には、CAFsで高まっているTGF‐βシグナルを抑制する作用があることが判明した。興味深いことに、231症例の乳がん患者のがん組織を組織マイクロアレイで解析したところ、がんの中にヒストンアセチル化の低下したCAFsが存在する症例は、予後不良であることが示された。

研究グループは「グルタミン欠乏がどのようにしてTGF-βシグナルを活性化するのかをより詳しく調べることで、CAFsの誘導を抑える薬剤の開発が可能になるのではないかと考えている」とコメントした。