京都大学の関修平教授らの研究グループは21日、二硫化チタン(Tis2)と呼ばれる層状化合物の層間にキラル分子を挿入した新奇な物質「キラルTis2」を開発し、挿入したキラル分子のキラリティに依存して同物質中を特定方向のスピンを有する電子のみがほぼ選択的に伝導することを明らかにしたと発表した。次世代エレクトロニクスを担う革新的電極設計指針となりそうだ。
研究ではキラルTis2に電流を流すだけで、室温でスピン偏極率(スピンが一方向に揃っている度合い)が約95%ものスピン偏極電流が生成可能でありことを見出した。さらに、同材料を電極とした高性能な磁気抵抗素子の作製や水電解セルによる水素製造の効率化が可能であることも実証した。
■右手と左手のように
研究グループは、右手と左手のように、鏡に映した構造が元の構造と重ならないという特殊な構造を持つ「キラル分子」と呼ばれる分子が持つ「キラリティ誘起スピン選択性」という現象に注目。これは、電流がキラルな構造を持つ分子中を流れることで、電流中のスピンが平行に揃うという性質だ。
研究グループはTiS2と呼ばれる層状化合物の層間にキラル分子を挿入することで、電流中のスピンをほぼ完全に平行に揃える性質を有する新たな物質「キラルTis2」の合成に成功した。この物質は、良質な金属としての性質を同時に有しており、そのまま「電極材料」としての応用が可能という。
キラルTiS2中におけるスピン偏極率を調べたところ、同物質を流れた電流の中ではおよそ 95%ものスピンが同方向に揃っていることが明らかになった。スピンの向きを揃える性質としては既存の材料を大きく凌駕する値であることが分かっている。挿入する分子のキラリティを右手系から左手系に入れ替えることで、スピンの向きを反対方向に揃えることが可能であること分かった。
研究グループは「この手法は、既存の物質中にキラルな化合物を組み込むというシンプルな手法によってスピン選択性を付与可能な革新的手法であると共に、本研究で使用した二硫化チタンに限らず、様々な物質にも同原理が適用可能であると考えられ、次世代エレクトロニクスやエネルギー製造を担う革新的電極設計指針となることが期待される」としている。