京都大学の中村秀樹特定准教授らは20日、生きた細胞内部の構造体に力をかけて〝押す〟ツール『ActuAtor(アクチュエーター)』を開発したと発表した。細胞を工事できる新時代の基礎技術となることが期待されている。
研究グループは、細胞内の標的に力をかける技術を開発するにあたって、バクテリア 「Listeriamonocytogenes」の性質に注目。このバクテリアは、宿主注である動物細胞に侵入した後、細胞内で活発に動き回るが、このとき自分の力で動くのではなく、宿主の細胞の力発生装置である「アクチン」の働きを利用して自分を押してもらうことで動くことが分かっていた。
バクテリアの側から必要なのは、Actin assembly-inducing protein(ActA)というたった1種類のタンパク質であることが知られる。Listeriaは宿主細胞内で、自分の後方表面にActAを提示。ActAには宿主細胞のアクチンを重合させる働きがあるため、バクテリアの後方でアクチンが重合し、アクチンのネットワークが成長する。このネットワークが後方からバクテリアを押すことで、バクテリアは前方に運動する。
ListeriaのActAから動物細胞のアクチンを効率的に重合させるのに必要な部分を切り出し、動物細胞に安定して導入できるよう改変することに成功。さらに、薬剤や光刺激で細胞の中のタンパク質の結合を外部から操作できる技術と組み合わせることで、ActA由来のタンパク質を、生きた細胞の狙った場所に、集められるツールActuAtorを開発した。
研究グループは「これらの技術は、いわば細胞の中を自在に『工事する』ことで細胞の働きを理解したり、その機能を向上させたりする、新しい時代の基盤技術となることが期待される」としている。