カイコは小さなRNAに見守られて成長する―。東京大学の勝間進教授らの研究グループは20日、カイコを使った実験で、生殖細胞ゲノムを守る役割を担う「RNA」が、個体の成長や体細胞組織の発達および性分化にかかわることをゲノム編集により示したと発表した。農学の観点からも重要な発見であるとされている。
研究ではカイコのRNAである「BmAgo3」と「Siwi」が欠損した生物を作成。すると、遺伝子を欠損した幼虫において成長遅延が観察、成長した個体ではハネの萎縮などを確認できた。
次にこうした以上の原因を探るために、BmAgo3遺伝子の欠損カイコの組織を用いてRNAの性状や遺伝子発現プロファイルを詳細に調べた。小分子RNAを組織から抽出して、次世代シークエンサーで解析したところ、生殖巣である卵巣だけでなく体細胞組織である脂脂体や翅原基でもRNAの存在が確認された。
しかし、BmAgo3タンパク質を失ったカイコでは、いずれの組織においてもRNAがほとんど失われていた。その結果トランスポゾンの発現は増加し、さらに遺伝子発現プロファイルも正常なカイコとは大きく異なることが分かった。
研究グループは「研究の成果はPIWIタンパク質およびRNAのチョウ目昆虫の生存における重要性を示すものであり、PIWIタンパク質やRNAの整合性にかかわる遺伝子を標的とした昆虫制御法の提案につながるものとして、農学の観点からも重要な発見であるといえる」としている。カイコは小さなRNAに見守られて成長している。