埼玉大学の藤城貴史准教授の研究グループは15日、嫌気的な環境の生物が使用する金属クラスターを利用する酵素群である「HCP/CODHファミリー」のうち、最も古い祖先型酵素「二量体型 HCP」のX線結晶構造を世界で初めて明らかにしたと発表した。これにより、初期生命進化のシナリオで重要な役割を果たしたとされる一酸化炭素代車酵素「デビドロゲナーゼ(CODH)」などが生じた過程を議論することが可能になっている。
研究では、分類学上で3つの異なるクラス(= クラス I と II は単量体, III は二量体)の HCPのうち、これまで不明であったクラスIIIの「二量体型 HCP」の構造をX線結晶構造解析により明らかにした。
さらに、二量体型HCPと単量体型HCP、CODHとの構造比較や、構造に基づく分子系統解析から、HCP/CODHファミリーの分子構造が、進化の過程でどのように変化していったかについて考察した。
その結果、HCPの進化では、二量体型HCPの会合面のαヘリックスと類似の構造が、単量体型HCPには二つ重複してみられ、遺伝子重複と遺伝子融合が、HCPの進化の過程で起こったことが示された。
一方、CODHの進化では、CODHはHCPと類似の二量体構造を取りながらも、活性部位だけでなく会合面においても変異がみられたこと、その会合面の変異が活性部位よりも早く起きたことなどが示された。
二量体型HCPが共通祖先となり、単量体型 HCPとCODHが独自に生じた諸過程の分子進化のシナリオを新たに提案することができた。
研究グループは「今後は、遺伝子変異や合成生物学の手法を用いて、実際に HCPを人工的にCODHへと進化させることができるかどうかを検証していく予定。またHCPの触媒機構には依然不明な点が多く、その化学的な理解に向けた実験も進めていく」としている。