■研究のポイント■
◎フィンランド・オウル市内と日本・横浜市内の都市街路空間で自発的に生育する植物の多様性を調査
◎街路空間のさまざまな生息環境(植え込み、街路樹の基部、アスファルトの割れ目、舗装された歩道、建造物壁面など)を通して、外来種は必ずしも優占しないことがわかった
◎それぞれの生息環境に特有に分布する自発的な植物種が数多く存在することが明らかに
◎街路空間で多様な生息環境を設けることによって、街路を行き交う人間の目に触れる自発植生の多様性を確保できる
横浜国立大学大学院環境情報学府の卒業生のMirka Heikkinen氏(2022年度博士課程前期修了)、同大学院の佐々木雄大教授は、都市街路空間で見過ごされてきた自発植生(人によって植えられた植物ではなく、自発的に生育する植物)の多様性を評価した論文を発表した。
都市街路空間は概して、舗装された路面が目立つため、街路の植え込みや街路樹の基部などの一部を除き、自発植生はあまり存在しないと認識されがち。自発植生が仮に存在したとしても、人や車の移動に伴う種子散布や定着環境など、人為影響の受けやすさから、そのほとんどが外来植物である可能性が予想される。
この研究では、一見忘れられがちな都市の街路空間で、街路の植え込みや街路樹基部のような土壌に覆われた基質表面だけでなく、アスファルトの割れ目、舗装された歩道、街路と建造物敷地を隔てる壁面など人工的な基質表面にも着目し、自発植生の多様性がどのように分布するのかを調査した。
フィンランドのオウル市と日本の横浜市で都市の街路植生を地道に踏査し、道路縁辺の草地、アスファルト路面、石畳の歩道、縁石の隙間、街路と建造物敷地を隔てる壁面、街路の植え込みや街路樹の根元など、街路の生息環境の種類によって、植物の種の数と構成がどのように変化するかを調べた。
調査の結果、街路空間のさまざまな生息環境を通して、外来種は必ずしも優占しないこと、生息環境に特有に分布する自発的な植物種が数多く存在することが明らかとなった。これらの知見は、都市の街路空間もさまざまな自発植生を支えうること、街路空間において多様な生息環境を創成することによって、街路を行き交う人間の目に触れる自発植生の多様性を担保できる可能性を示唆している。
この研究成果は、国際科学雑誌「Global Ecology and Conservation」に掲載された(9月5日付)。
街路は、都市の土地利用に占める面積割合が大きく、建造物どうしを繋ぎ、人や車の移動を支えている。しかし、都市生態系での植物の多様性を維持するための街路空間の役割は、まだ十分に理解されていなかった。