法政大学は、東急不動産㈱、ダイキン工業㈱とともに、2022年からウェルネスオフィス構築を目指し、新築オフィスの開発や既存オフィスの改善に向けて取り組んでいる。この取組の一環として、法政大は東急不動産が保有するオフィスビルに入居する企業61社を対象に、室内環境の実測調査及びワーカーを対象としたアンケート調査を実施した。これらの調査を通じて、オフィス環境とワーカーの作業効率やプレゼンティーズム(健康問題によるパフォーマンスの低下率)の関係を分析した。
その結果、ワーカーによるオフィス環境に対する総合的な評価が高いオフィスほど、作業効率が向上し、プレゼンティーズムが低減することを確認した。また、環境の悪いオフィスは、環境の良いオフィスと比較して、年間 1人当たり約100万円多くの経済損失が生ずると推計された。
この研究結果は、建築環境工学の分野で著名な国際学術誌「Building and Environment」に掲載された。
■研究背景
近年、オフィス環境がワーカーの作業効率や健康状態に大きな影響を及ぼすことが様々な研究で明らかにされつつある。このような背景から、執務者の健康状態を維持増進し、作業効率を高めるウェルネスオフィスの必要性が高まっており、ワーカーが活き活きと働くことができるオフィス環境の普及が求められている。
しかしながら、オフィス環境を構成する各要素が作業効率やプレゼンティーズムにどの程度影響を及ぼすか、またそれが経済便益にどれほど影響を及ぼすかは、まだ十分には明らかになっていない。これらの情報を明確にすることで、既存のオフィスの改修や新規オフィス開発のために投資を行う際、優先順位を判断するための重要な手がかりとなるという。
東急不動産は従来、渋谷ソラスタ(東京都渋谷区)や東京ポートシティ竹芝(東京都港区)など、室内環境やワーカーの働きやすさに配慮したオフィスビルの開発や運営を行ってきた。法政大等の研究ではこのようなビルを対象に、法政大デザイン工学部川久保俊研究室、東急不動産の二者で共同調査を実施した。
■研究結果
《オフィス環境とワーカーの作業効率・プレゼンティーズムの関係》
オフィス環境に対する評価の程度でワーカーを低位、中位、高位の3グループに分け作業効率及びプレゼンティーズムを比較し、評価が高いグループほど作業効率が高く、プレゼンティーズムの程度が低いことが示された。評価の低いグループ(経済損失額189.2 万円)は評価の高いグループ(同85.3万円)と比較して、年間1人当たり約100万円多くの経済損失が生ずると推計された。
《オフィス環境の要素ごとの影響と経済便益》
ワーカーの作業効率の向上に最も影響を与えるオフィス環境の要素は「内装・インテリア」であり、感じると評価するごとに、22.5 万円/(人・年)の経済便益が生ずると推計された。また、プレゼンティーズムの軽減に最も影響を与えるオフィス環境の要素は「デスク周辺の明るさのムラ」であり、感じないと評価するごとに 14.5万円/(人・年)の経済便益が生ずると推計された。