□研究のポイント□
◎日本では森林の成熟によって豪雨による土砂災害が変化している
◎林齢の異なる人工林で発生した土砂災害を対象として、土砂災害を引き起こした降雨と発生流木量を比較。森林の成熟が土砂災害に及ぼす正と負の影響を明らかにした
◎この研究の成果は、気候変動下での土砂災害対策や森林資源の管理の方向性を考える上で役立つことが期待される
森林の土砂災害防止機能は森林の成熟に伴い向上することが明らかになっている。日本では森林の成熟によって全国的に豪雨による土砂災害が減少してきた。一方、近年の土砂災害では大径化した樹木が流木として流出して被害を拡大する事例がみられる。土砂災害対策や森林資源の管理を行う上で、森林の成熟が土砂災害に及ぼす影響を総合的に検討する必要がある。
九州大学の研究グループは,林齢の異なる人工林で発生した表層崩壊を比較することで森林の成熟が土砂災害に及ぼす正と負の影響を明らかにした。
九大大学院生物資源環境科学府博士後期課程の佐藤忠道氏、同修士課程の香月耀氏、さらに農学研究院環境農学部門の執印康裕教授らの研究グループは、1988年に発生した広島県旧加計町の土砂災害(若い森林での土砂災害)と2017年に発生した福岡県朝倉市の土砂災害(成熟した森林での土砂災害)を対象とし、土砂災害を引き起こした降雨と発生流木量を比較した。
その結果、成熟した森林は若い森林と比較して、より規模の大きい豪雨に対して防災機能を発揮できることを明らかにした。しかし、成熟した森林では、若い森林と比較して土砂災害時の流木量が大きくなることが明らかになった。
日本は国土の67%が森林で、このうちの約4割は人工林。現在、人工林の多くは成熟した状態にある。さらに将来、気候変動による極端豪雨の増加が予想されている。この研究はそのような状況下で、効果的な土砂災害対策や森林資源の管理手法の開発に貢献することが期待される。
この研究成果は英国の雑誌「Scientific Reports」に掲載された。