文教速報デジタル版

BUNKYO DIGITAL

文教速報デジタル版

BUNKYO DIGITAL
歯みがきが一部の高齢者の肺炎の発症を減少させる可能性 医歯大教授らが機械学習を用いて高齢者の疫学データ解析

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野の相田潤教授、井上裕子特任研究員の研究グループは、東北大、新潟大、JAGESグループとの共同研究で、高齢者の人々が家庭で日常的に行う歯みがきが肺炎予防に効果があることを明らかにした。病院や施設で行われる専門的な口腔ケアと肺炎発症の関連は報告されているが、家庭で行う日常的な口腔ケアである歯みがきとの関連は明らかではなかった。相田教授らの研究により、肺炎球菌ワクチンを未接種の高齢者では、1日3回以上歯をみがく人と比べて、1日に1回以下しか歯をみがかない人は、1.57倍肺炎の経験が高かったことが判明した。肺炎球菌ワクチンを接種していない免疫力が弱い高齢者では、口腔内細菌で肺炎を起こす可能性があり、そのため歯みがきで肺炎予防の効果が認められるという可能性が示唆された。

これまでの口腔ケアと肺炎の研究の多くは、病院や施設で行われる医療職種や介護職種による専門的な口腔ケアの効果を調べていた。誰もが家庭で行う日常的なセルフケアである歯みがきの肺炎予防効果は明らかではなかった。また、肺炎球菌ワクチン接種の有無により肺炎に対する免疫力が変わるため、それが歯みがきの効果に影響を与る可能性もあるが、こうした観点を考慮して検討した研究はこれまでなかった。そこで、研究では、要介護認定を受けていない高齢者を対象に、肺炎球菌ワクチン接種の経験を考慮して、日常的な歯みがきと、過去1年間の肺炎経験との関係を明らかにすることを目的とした。

この研究は、2016年の日本老年学評価研究(JAGES)のデータを用いた横断研究です。歯みがき回数と過去1年間の肺炎経験との関連を、過去5年以内の肺炎球菌ワクチン接種の有無によって層別化し、バイアスを低減し、従来の解析方法より信頼性のある結果が得られる機械学習を用いて分析をした。調整変数には、性別、年齢、教育歴、等価年収、脳卒中の既往歴、口腔内の健康状態(むせ、口乾、歯の本数)、喫煙状況が含まれている。これらの情報は質問紙調査で収集した。

解析対象は65歳以上の要介護認定を受けていない高齢者1万7217人(平均年齢73.4±5.8歳,男性46.1%)でした。過去5年以内に肺炎球菌のワクチン接種を受けた人は43.4%、受けていない人は56.5%だった。全体では対象者の4.5%が過去1年間に肺炎を経験し,ワクチン接種群で4.6%、非ワクチン群では4.5%が肺炎を経験していた。

歯みがきが1日に1回以下の人の場合、肺炎を経験した割合は、ワクチン接種群では、4.5%、非接種群では、5.3%だった。機械学習を用いた分析の結果、肺炎球菌ワクチン未接種群では、歯みがき1日に1回以下の群では、1日3回以上の群と比較して、肺炎経験を有するオッズが1.57倍(95%信頼区間:1.15-2.14)となった。

一方、肺炎球菌ワクチン接種を受けた群では、歯みがきの回数と肺炎経験との間には有意な関連は見られなかった。このことから、ワクチン未接種の高齢者では、日常的な歯みがきの回数が多いことが肺炎経験の減少に影響がある可能性が示唆された。

■歯磨き回数が多い場合に認められる肺炎予防

これまで、口腔ケアと肺炎の関連の研究は、入院患者や施設居住者を対象とすることが多かったが、この研究では要介護認定を受けていない自立した高齢者を対象とし、肺炎球菌ワクチン接種を考慮した。

この研究結果から、肺炎球菌ワクチンを接種していない免疫力が弱い高齢者では、口腔内細菌で肺炎を起こす可能性があり、そのため歯みがき回数が多い場合に肺炎予防の効果が認められるという可能性が示唆された。ただし、この結果は、歯みがきをすれば肺炎球菌ワクチンをうたなくていいということを意味しないという。肺炎球菌ワクチンを接種して、歯みがきもきちんと行うことが、肺炎や歯科疾患の予防に重要となる。