南極へ研究に行く自見直人講師
「日本の沿岸を1日300キロ移動して、100カ所以上を掘った」―。こう話すのは名古屋大学の自見直人(じみ・なおと)講師だ。ゴカイなどの無脊椎動物を専門に研究しており、これまで70以上の新種を見つけてきた。日本だけでなく、南極から深海まで世界規模で探している。その原動力について語ってもらった。
■図鑑がないゴカイ
「自作した水槽に入れたカキ殻にゴカイが付いていたんですね」。ゴカイに関心を持ったきっかけを尋ねると、高校生時代のエピソードを懐かしそうに教えてくれた。
当時から図鑑に載る生物は全て暗記していたほど海洋生物に夢中であった自見さん。しかし、ゴカイの図鑑は記憶になく、殻にいた生物がなんという名前か分からなかった。それまで「図鑑が全て」だった自見さんにとって衝撃的だったという。
それ以降、ゴカイのような環形動物に興味が向いたという。「知らないものが見てみたい。それが自分だ」と語っている。
■日本を一周、世界を探索
自見さんは先日、イワミズヒキやドロミズヒキ、ヒガタミズヒキなど10種の新種のミズヒキゴカイの発見を発表した。日本沿岸を1カ月で一周し、穴を掘ったり、海に潜ったりして早朝から探したそうだ。風呂にも3日に1回入れば良いほど熱中した。
そのエネルギーはどこから湧いてくるのか。自見さんは「ゴカイ研究の魅力は一般的にイメージする細長い個体だけではなく、ウミウシに似ているなど想像もしていない存在が稀にでることだ」と話す。新種を発見すると、未発見のものがでた嬉しさがあり、その喜びが力になるという。
ゴカイは水深0から1万mまで生息し、生きる環境もさまざま。自見さんは昨年、南極へゴカイを含めた生物を採集に行った経験を説明。マイナス15度の世界。ダウンを着ても凍える環境の中、深夜2時まで作業したそうだ。
ミズヒキゴカイ
■新たな種を探しに深海へ
自見さんはゴカイの新種はまだまだ眠っていると予想する。今後について、「これからも、まだまだゴカイを探しに行って新種のゴカイを見つけたい」と力を込める。取材を終えてすぐの10月上旬、潜水艦「しんかい6500」に乗り、新たな生き物を見つけるため海の底へ潜っていった。
しんかい6500に乗る自見講師