立命館大学の光斎翔貴准教授
将来、当たり前に思っている景色がなくなってほしくない―。立命館大学で准教授として勤めつつ、福岡県のベンチャー「オーシャンリペア」の代表を務める光斎翔貴(こうさい・しょうき)さんは、海の藻類がなくなる磯焼けへの問題意識から同社を起業した。
■水産関係者を苦しめる磯焼け
魚やウニの食害によって海藻がなくなる磯焼け。水産庁によれば2020年には、34都道府県で発生していたとされる。「流通する魚の肉質が15~20年で、すごく落ちた。魚も全然とれなくなった」。光斎さんが知人の紹介で、九州の水産関係者の話を聞くとそうした説明をうけた。
磯焼けが直接的な原因とは言い切れないが、目の前の課題に困っている人たちがいる。資源循環を専門分野の1つとし、持続的な社会を実現したいと考えてきた光斎さん。今年2月に海藻を食べるイスズミやアイゴなどからドックフードを作るオーシャンリペアを創業した。
起業前は大手ペットフード企業にそれら魚を使った商品開発を提案していた。先方もそれで利益を上げる方法を模索してくれたが、ペットフードは薄利多売の業界。イスズミやアイゴのように加工で手間がかかる材料では、商品単価は上がってしまう。既存のビジネスモデルではリスクが高く、取り扱いが進みづらい現状があった。
■食害魚でドックフードを開発
光斎さんは自らの会社でドッグフード「オーシャンハーベスト」を開発した。イスズミとアイゴ、タラを原料にかつお節を混ぜることで、アレルギーが起こりにくく食いつきも良い製品に仕上がった。
獣医学系論文によれば犬の15~35%が、ビーフ・チキンの材料によりアレルギーを起こしているとされる。一方で、白身魚でできたものによる発生率は1%未満。「ペットの体質や涙焼けが改善した」や「湿疹が消えた」といった消費者からの声を聞くとやりがいを感じると語る。
九州でも長崎県五島市は特に磯焼けが進んでいる。そのため、「まずは五島市に貢献できれば」と同市の魚のみを扱う理由を教えてくれた。今後の課題を尋ねると、需要が拡大した際の安定供給と話す。生産量が季節により変動する漁獲量に左右されるからだ。今後は五島のみならず磯焼けに悩むエリアから漁獲を促すとともに魚をたくさんストックできる設備が必要になってくるという。
■共同で課題解決する楽しみ
「水産関係者や加工会社、メーカー、大学、立場は違えど共通の課題をもち解決するために、協力して活動することはとても楽しい」と熱弁する。皆で戦略を考え、誰かに貢献しつつ売り上げを伸ばせる仕事はそれだけ働きがいがあるのだろう。
その後、母校の校訓「Man for Others, with Others(他者のために、他者とともに生きる人間)」を紹介してくれた。一人ではどうしようもないことはあるけれど、仲間と共にミッション達成までの過程を楽しみたいという。
光斎さんの言葉からは、研究成果を社会に生かすという大学准教授としての矜持(きょうじ)とそれを実現させるために挑戦する熱意を感じた。社会のために動き続ける光斎さんを応援したい。
オーシャンハーベスト
オーシャンハーベストのウェブサイト