カキ養殖場の温湯処理
東北大学の坂巻隆史准教授らは、カキ養殖漁業者が付着生物対策で行う「温湯処理」が品質向上や海底の汚濁負荷軽減といった効果をもたらしていると実証した。自然界の物質動態に目を向け、栄養塩・有機物を有効に使うことで食料生産効率の向上などの利益が得られるという。
研究では志津川湾(宮城県)で養殖カキの温湯処理を実験的に実施。船に積まれた湯釜で 55~60 度に熱した海水に養殖カキを浸けて再び養殖場に戻した。その後、5カ月間、湯処理区と非処理区でカキの成育と肉の栄養成分と改定の有機物量を測定している。
その結果、5カ月経過後も付着生物「ムラサキイガイ」が未処理区と比べて20%以下に抑えられた。さらに、温湯処理区では処理から5カ月後のカキの個体あたり身肉と肥満度が20~30%程度向上していた。加えて、人間にとって重要な栄養素の必須脂肪酸EPA・DHAのカキ身肉中含有量が13~15%増えた。
また、カキ養殖場からの有機物の沈降量は、温湯処理区で10~57%減少したことが確認されている。
研究グループは「漁業者が経験に基づいて行ってきた温湯処理が、カキの生産量増加だけでなく、海底の汚濁緩和にも寄与し養殖の持続可能性を高める効果を持つことを示している」としている。