山梨大の茅暁陽副学長
摘粒(てきりゅう)とは、将来のブドウの形を良いものにするために間引く作業だ。残す実の数の目安は決められているが、新規就農者にとって粒を数えるのは難しく、経験豊富な生産者でも正確に見積もることに苦労している。山梨大学の茅暁陽(マオ・シャオヤン)副学長らは、民間企業と協力してブドウの実を数えるアプリ「粒羅」(つぶら)を開発した。「本当に使えるものを現場に届けたい」と意気込んでいる。
■「最初は簡単だと思った」…6年研究
「摘粒支援をしてほしい」。CGやAI(人工知能)を専門とする茅さんが良質なブドウを収穫するための作業にAIを生かせないかと考え、生産者を訪問すると要望された。摘粒は梅雨の時期に短時間で、数千単位のブドウで実施する。負担は大きいが品質に影響するため、助けてくれるアルバイトにも任せられない仕事だという。
研究を始めたのは6年前。最初はとても簡単だと思った。だが、粒は見た目がほぼ同じであり、また、裏にある粒は見えたり、見えなかったりするため、房を回しながら、すべての粒を正確に数え上げることは不可能であった。
システムのAIが出したブドウの実の数の検証やAI学習用の「教師データ」を集めるために、研究メンバー3人以上で実際に一つ一つ数えて計算。皆が別の数字を数えてしまうこともあった。
■ビッグデータでAIが計算
開発したシステムでは、ブドウの粒同士の密度や大きさ、重なり具合などのビッグデータを基にAIが推計して回答をだす。まだ数の誤差が生まれることがあるが、AIモデルの改善や学習データが増していくことで変わりつつあるという。
アプリにはチュートリアル機能が備わっており、高齢の人が多い生産者にも分かりやすく使い方を教えてくれる。基本的には起動して、カメラをブドウに向ければ自然と数値を教えてくれるという仕組み。まだリリースはしていないが、スマホ画面を見ながら作業をするためのヘッドセットも開発した。
利用者からは「本当に数えていてびっくり」といったポジティブな意見もある一方で、「まだ精度がいま一つ」といった指摘も寄せられる。有料版になった際には、300円~1万円の範囲で買うという話が生産者らからきており、共に作成した学生も一喜一憂しているという。
粒羅でブドウの粒数を測っている様子。右上のオレンジの四角形の中にある44という数字が実の数だ。
■スタートアップで若者が生産業を引っ張る
来年の春には山梨大発の粒羅アプリを中心としたスタートアップを研究グループの若者たちが起業予定だ。生産者と共同研究をする中で、必要とされていると実感しているという。茅さんは「若者が夢を持って頑張ることはとてもいいことだ」と話す。
一方で、「地域によってブドウの作り方が異なるため、実際に全国の生産者に使っていただくためには、様々な利用環境においても高い精度で推定できるようもっと改善していきたい」と力を込めている。