筑波大学の佐藤幸恵助教らのグループは、静岡県の天城山で遺伝⼦浸透は極めて低いながらも2種間の交雑が検出されたと発表した。二次的接触帯の交雑と遺伝子浸透状況が明らかになった研究は初めて。
ススキスゴモリハダニ種群は稲科の植物であるススキに寄⽣し、集団営巣する体⻑1mm未満の生物。中でも、攻撃性の弱いトモスゴモリハダニと強いススキスゴモリハダニ HG 型は寒冷地と温暖地に適応している。静岡県から九州にかけての⼭岳地域では標⾼によるすみ分けが⾒られる。また、これらは共通の祖先から分岐したとされている。
研究では、標高によるすみ分けがみられる静岡県の天城山で標高50mごとにハダニを採集して、山の中腹で見られる2種の二次的接触の存在を調べている。
その結果、形態での種同定により、標⾼150~430mの広い範囲で2種の分布が重なっていることが分かった。天城⼭はススキスゴモリハダニHG型が生存する北限に近い。先⾏研究で、別のハダニ2種が生息地の南限で分布の重なりが報告されている。静岡県から九州にかけての⼭では、トモスゴモリとススキスゴモリの2種の⼆次的接触帯が広く存在することが⽰唆された。
一方、交配実験をしたところ雑種形成を確認したものの野外から明らかなハイブリッドは確認されなかった。だが、確率は低いながらも両種の遺伝子伝播(でんぱ)が認められた。種間で交尾が起こると、生殖構造があわないことなどから未受精卵が過剰⽣産されるが、両種の交配は起こっていることが推察されている。
研究グループは「ススキスゴモリハダニ種群2種について、⼆次的接触帯における雑種形成や遺伝⼦浸透は抑制されていた。だが、他の⼭での⼆次的接触帯でも同様なのか、確認する必要がある」とコメントしている。