氷河上に開いた縦穴(写真提供:JAMSTEC永塚尚子)
海洋研究開発機構(JAMSTEC)と東京大学、国立極地研究所、北海道大学の研究チームは30日、氷河融解が海の植物プランクトンの増殖に与える影響を評価した。氷河が後退した場合に、生物生産が激減する可能性を指摘している。同日付の「サイエンティフィック・レポーツ」に掲載されている。
氷河融解水の流出は、海洋生態系にとって重要であることは知られていたが、融解水の量と生物生産の関係において、どのプロセスが重要なのかはこれまで調べられていなかった。
グリーンランドにある氷河が削られてできた入江「フィヨルド」を対象としたモデルを開発した。氷河が融けた水が盛んに流入する夏に、プランクトン増殖で必須な栄養塩の動きを定量的に解明することに成功している。
融けた水によってフィヨルド内の海水が大きくかき混ぜられる現象や塩分濃度の薄い融水が重い水分の上にのることで、栄養塩が表層に供給されて無機物が有機物を生み出す「基礎生産」が促されていることが判明した。
だが、温暖化が進むことで融水の流出量が増加し、氷河の後退により流れ出る深さは浅くなる。氷河の大きさが海から陸まで縮小した場合に、基礎生産量は現在と比較して約9割減少することがシミュレーションにより明らかになっている。
世界の多くの氷河が縮小傾向にあり、今後数十年の間にさらなる変化が起こりうることが予測されている。グループは「研究で得られた知見を基に、継続的な現地調査観測とモデルによる統合的な研究を発展させ、陸域と海洋間の生物地球化学的な物質循環への理解を深めていく必要がある」とした。