東京大学の伊藤昭彦教授らによる研究グループは、人為起源の反応性窒素(Nr)が地球環境に与える影響を明らかにした。環境に放出されたNrが大気の微粒子や温室効果ガス、生態系の炭素収支に変化を与えることで気候に影響を与えていることを初めて解明した。
農地での肥料や化学工業のため大量の窒素が使用され、放出されたNrはさまざまな環境問題を起こしている。だが、窒素循環の変化が地球の気候に与える影響の全体像は十分に理解されていなかった。
そこで、ドイツのマックス・プランク研究所などから多くの研究者が参加する国際チームによって、地表での窒素動態や大気中での輸送・化学反応を扱うモデルを用いた分析が行われた。
その結果、地球のNr循環の変化は温暖化と寒冷化の両方に作用することが示され、両者が相殺しあい産業革命以降では寒冷化効果が生じてきたことが明らかとなっている。
その大きさは、人為起源の温室効果ガスによる温暖化の約6分の1に相当する規模だ。これらの効果は場所ごとに異なった強さで現れ、特にエアロゾルの効果によってアジアやヨーロッパ、北アメリカで強く寒冷化を招く効果があることが示唆されている。
研究グループは「Nrが地域の環境汚染だけでなく地球の気候に与える影響の全体像を初めて解明した。この成果により、人間活動から排出されるNr関連ガスの削減による気候変動対策のより効果的な実施につながることが期待される」としている。