群れの向きのシミュレーションパターン
東北大学の伊藤将大学院生と内田就也准教授は、魚の視覚の仕組みに基づき、視線の運動を取り入れた新しい理論モデルを提唱した。2、3匹の標的を追跡する魚の運動から、大きな群れが柔軟に形を変える様子まで集団行動の特徴を再現することに成功したという。
魚は広い角度の視野を持ち、群れの中では前後左右にいる多数の魚を見ていると考えられている。だが、行動する際には、近距離を高速で運動する一部の魚だけに注目し、その運動に反応することが近年明らかになった。一方で、選択的な相互作用と群れの運動の関係はよく分かっていなかった。
提案した理論モデルは、魚は注意を向ける方向にいる個体にのみ反応して運動するという仮説から視線の時間変化を記述するもの。網膜に映る像のサイズと速度によって決まる信号を合成し、それが最も強い方向に視線が誘導されるとすることで、特定の個体に注意を向け続ける効果を導入している。
個体に反応して発生する加速度も、像の大きさや方向に依存して変化する。シミュレーションにより、2 または 3 匹の標的を追跡する個体が、1 匹を選択して近づく様子が再現された。
また数十~数百匹からなる群れは、回転する群れ、向きのそろった群れなど、条件によって多様なパターンを示すと判明した。特に旋回パターンに見られる柔軟な群れの変形はこのモデルの特徴だ。さらに、群れでは個体が視野をさえぎるので、少数匹の個体からしか影響を受けないことも確認された。
研究グループは「今回提案したモデルを応用することで、さまざまな生物の群れ形成における視覚相互作用の役割が解明されると期待される」としている。