(A)歩きスマホの計測風景(B)かかとに取り付けた加速度計で計測される加速度の時間波形とそこから得られる歩行周期の系列(C)歩行周期の変動(歩行周期ゆらぎ)
京都大学や大阪大学、米ノースカロライナ州立大学の研究グループは、段差や障害物のない土地の直線的で一定速度の歩行でも、歩きスマホが歩行の安定性を低下させることを明らかにした。成果によって、歩きスマホの危険性を明確にすることもできそうだ。
研究では、一定速度でベルトが回転する「トレッドミル」を歩行する際のリズム、歩行周期の変動を計測することで、歩く安定性を反映する指標値が評価された。
若年健常者の歩行周期変動は、「1/fゆらぎ」を示す。1/fゆらぎは長期記憶・持続性相関を有する確率過程の1つ。ある時点での歩行周期は、それより数千歩前の周期の影響を受けて決められるという性質がある。高齢者の姿勢や歩行が不安定となるパーキンソン病患者は、1/f ゆらぎが損なわれる傾向があるという。
実験では、「画面表示のないスマートフォンを見ながらの歩行」と「ゲームをしながらの歩きスマホ」、「何も持たない歩行」を比較した。予想に反して、平均歩行周期と歩行周期のばらつきは、通常歩行と非認知課題、認知課題の3条件で差はなかった。
だが、持続性相関指標に関しては、歩きスマホに対してのみ、通常と比べてその値が低下すると分かった。これは、歩きスマホによる脳内情報処理が歩行の安定性を低下させることを示唆している。
グループは「歩行周期の神経制御と歩行の安定性の関係を明らかにする脳科学研究に対するエビデンスを提供できたことにある」と評価している。また、「歩きスマホの危険性を社会により明確に認識していただく啓蒙効果も期待される」とした。