東京大学の横山順一教授らは、原子ブラックホール生成に関係するゆらぎ同士が、ぶつかり合う効果をはじめて詳細に計算した。小スケールに作った大きなゆらぎが、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)で計測される大スケールのものにも影響を及ぼすと明らかにしている。
原始ブラックホールは、初期宇宙にエネルギー密度の大きなゆらぎがあると生成される。このゆらぎを生み出す仕組みは、ビッグバン以前に宇宙が急膨張した時に生まれた量子ゆらぎが最有力だ。
CMBの観測により初期宇宙のゆらぎは宇宙のインフレーションを引き起こした空間が、ポテンシャルの坂道をゆっくりと転がりながらインフレする「スローロールインフレーション」で説明されるが、通常のモデルでは原子ブラックホールのような大密度領域は作れない。そのモデル構築が研究者によって進められている。
今回、横山教授らは、従来の常識を覆して小スケールに生成した大きなゆらぎが CMB で観測されるような大スケールのゆらぎにも影響を及ぼすことを明らかにした。
太陽の数十倍もの質量を持つブラックホールやダークマターの起源を原始ブラックホールによって説明できるほど大きなゆらぎを予言するモデルは、CMB で観測されている以上に場所ごとに放射温度のゆらぎをもたらしてしまい、観測結果と矛盾することが分かったという。
大質量ブラックホールやダークマター候補となる原始ブラックホールをCMBの観測に抵触せずに生成するのは困難だと解明しており、横山教授らは「原始ブラックホールを生成するためにはより複雑なモデルを考えるか、全く別のメカニズムを考えていく必要がある」としている。