ダブルタッチ錯覚
名古屋市立大学の小鷹研理准教授らは、独自に考案した「からだの錯覚」を使って、指の長さと幅の変化に対する感受性を比較し、長さの変形がより強い錯覚を生じさせると発見した。長さと広さが変わることによる感覚では、質的な違いがあることを初めて明らかにしている。
仮想空間では、体験者はアバターを自身の体として自由に操ることができる。一方で、心理的に無理のある違いは同一性を維持することが困難だという。身体がどの程度の変体に耐えうるのかを理解することがメタバースなどで重要な課題となっている。
小鷹准教授は目を閉じて自分と他者の指を触ることで、指が長くなった感覚を与える「ダブルタッチ錯覚」を発表してきた。これを使って自他の指を一直線に並べるレイアウト「長さ変形条件」と、横方向に並置する「幅変形条件」により、長さと幅の変形の錯覚を比較した。
実験の結果、幅よりも長さで、相手の指を自分のものと錯覚する感受性が高くなると判明。また、近距離条件(指間距離3.5センチ)では、68%の被験者が長くなる感覚を肯定的に感じた。一方で、指が広くなった感覚をポジティブに感じた割合は、長さの半分以下であった。
さらに、錯覚中に感じられている指の先端や根本、左右両端の位置を体験者の頭部でリアルタイムに追跡させる行動実験を行った。長さでは錯覚前後で平均して3センチ程度の変形距離を観測。他方で、幅では2センチ程度の変形に留まった。
小鷹准教授らは「身体の自由な変形の場である空想世界において、イメージのしやすさに関するリアリティーの濃淡が存在することを強く示している」と説明した。