九州大学の片山歩美准教授らの研究グループは、シカの長期間の採食が生態系に蓄えられた炭素を最大49%減少すると明らかにしている。シカが森林構造を変化させて生態構造に大きな影響を与えていると認めている。
森林生態系は二酸化炭素(CO₂)を吸収し、森林に蓄えることで気候変動緩和に貢献すると考えられている。シカによる森林構造の変化は炭素蓄積量の減少につながる恐れがあるとされているが、実態は明らかになっていなかった。
グループはシカが植物を食べ続けている宮崎演習林(宮崎県東臼杵郡)の天然林を「下層植生の有る針広混交林(PU)」「下層植生の消失した針広混交林(NU)」「不嗜好性植物(アセビ)の優占する灌木林(SR)」「ギャップ形成後に稚樹が更新していない裸地(CG)」に分けた。PUはシカの影響を受けていないが、その他は採食などで森林構造が変化しているとしている。
分析によるとPUからSRおよびCGへの変化は、地上部の炭素蓄積量を最大59%、生態系全体で最大49%減少させる可能性があると評価。SRとCGの炭素量低減は、シカが稚樹を食べ続けた結果、炭素吸収量の大部分を担う大木が減少したことに起因していた。
また、SRにはシカが嫌いなアセビが密生し、CGではギャップ形成時に生じた多量の枯死木が存在したが、どちらも炭素量の減損を相殺するには至らなかった。また、NUとSR、CGは、地表に堆積する落葉量と深さ 0~10センチ の土壌有機物も少なくなった。
グループは「シカの採食は山岳林で蓄積可能な炭素量を大きく減少させてしまうことが分かった」と講評。「シカ採食が森林生態系に与えるインパクトやシカ対策による保全効果の評価について引き続き研究を進めていく」とコメントしている。