■研究の要旨とポイント■
◎非接触に心拍数を推定する手法として、顔の映像の色変化を活用する手法が提案されているが、従来の方法では周囲の環境光変動の影響を受け、精度の高い結果を得ることが困難だった
◎動的モード分解を用いることで、心拍由来の顔のわずかな色変化(脈波)を映像から抽出する新たな解析手法を開発
◎開発した手法では、環境光変動下でも精度の高い解析が可能
◎この研究により、スマートフォンのカメラを使った簡便なバイタルモニタリングシステムなどへの応用が期待される
東京理科大学大学院工学研究科電気工学専攻の栗原康佑氏(2023年度博士後期課程3年、日本学術振興会特別研究員)らは、顔が撮影された映像を時空間解析手法の一つである動的モード分解により解析することで心拍由来のわずかな色変化(脈波)の抽出に成功し、非接触で心拍数を推定できる新たな容積脈波測定法を開発した。環境光変動下で撮影された映像について解析をおこなったところ、この手法のほうが従来法よりも高い精度で被験者の心拍数を推定できることを実証した。
心拍数は健康管理や感情分析の指標の一つとなることが知られている。心拍数の計測にはパルスオキシメーターなどの接触型の計測機器が使用されてきたが、計測機器の装着による炎症や不快感などが生じることもあるため、非接触で高精度な心拍数測定法の開発が求められてきた。
現状の非接触性の心拍数測定法としては、撮影した顔の映像から心拍由来のわずかな色変化を抽出する容積脈波測定法が知られている。しかしながら、被写体の顔の動きや環境光に変動が生じると、脈波由来の時系列成分の抽出が困難となり、心拍数推定の精度が著しく低下するという課題があった。
研究グループは、脈波が非線形性や準周期性などの特性を有することを考慮し、顔が撮影された映像から抽出した多次元時系列信号に対して動的モード分解を適用することで、脈波由来の時空間構造の抽出を行った。
一般に公開されている三つのデータセットに対して同手法を適用した結果、環境光変動が生じているシーンでも、高い精度で心拍数を推定できることを明らかにした。実験での二乗平均平方根誤差は6.37bpmで、従来法よりも推定精度が36.5%も向上した。
この研究をさらに発展させることにより、医療、看護、フィットネスなどの場面でのバイタルモニタリング技術としての応用が期待される。
この研究を行ったのは、栗原氏をはじめ同大学工学部電気工学科の前田慶博講師、浜本隆之教授、津田塾大学学芸学部情報科学科の杉村大輔准教授ら。
この研究の成果は国際学術誌「IEEE Access」にオンライン掲載された。