中部大学応用生物学部 環境生物科学科の長谷川浩一教授とヤンス・モルフェ研究員(キューバ生物生態・分類学研究所研究員)らは共同で、外来種ヤンバルトサカヤスデに寄生する線虫の一つが新種であることを突き止め、トラバッソシネマ属「ビアトルム」(旅行者の意味)と命名した。
ヤスデはムカデやゲジと同じ多足類の仲間であるが、人類に直接危害を加えることはなく、落ち葉を食べて生活する森の分解者。世界中に分布し(およそ1万2000 種が登録)、日本でも北海道から沖縄まで生息している。森のなかでひっそりと生活しているものがほとんどだが、ここ数年、外来種のヤンバルトサカヤスデが沖縄県と鹿児島県に侵入して定着し、ときに大発生して〝不快害虫〟として問題となっている。
もともとは台湾原産であると言われる同種は、土や植物と共に日本に持ち込まれて広がったのではないかと考えられている。国立環境研究所によると、本州の静岡県や神奈川県にも定着しているという。
沖縄県に定着したヤンバルトサカヤスデの寄生性線虫を調べたところ、日本や世界のヤスデ種に寄生するトラバッソシネマ属グループの新種であることがわかった。ヤンバルトサカヤスデと共に台湾から日本にやってきたことから、種小名(属名のあとに付ける名称)をビアトルム viatorum(ラテン語:日本語で旅行者)と命名した。
分子系統解析の結果、本線虫グループは宿主ヤスデ種を乗り換えて種分化がすすんだ可能性が示唆された。したがってヤンバルトサカヤスデに乗って台湾からやってきた本種が、日本産ヤスデ宿主に広がる可能性がある。沖縄県の石垣島と西表島には、ヤンバルトサカヤスデと同属の在来種イシガキミイツヤスデが生息しており、沖縄県八重山諸島の生物保護と同時に外来種侵入防止強化も必要になる。
外来種問題として、外来種宿主が持ち込んだ寄生生物が在来生物種に病気をもたらすともあり、ときにマツ枯れ病やカエルツボカビ症などのように、在来生態系の破壊や種の絶滅等を引き起こす場合もある。ただし本線虫グループはもともと宿主を乗り換える性質を持っている可能性があり、新たな宿主への悪い影響については、まだまだ分からないことが多い。