慶應義塾大学の岡野栄之教授らの研究グループは、ヒトiPS細胞由来の中枢神経に存在して、血管とニューロンを結びつける「アストロサイト」を用いて、アルツハイマー病に関わる遺伝子が発症や進行を抑える作用メカニズムを解明した。神経病理の拡がりを抑制する視点を基にした創薬につながる可能性がある。
日本では高齢者の4人に1人が認知症またはその予備軍とされる。最も患者の多いアルツハイマー病は治療法や薬がなく、早期の開発が求められている。近年、アルツハイマー病に関わる遺伝子「アポリタンパク質E(APOE)」の稀な形であるクライストチャーチ型が発見され、それがもつ疾患の進行を抑える働きが注目されていた。
研究グループはクライストチャーチ型のiPS細胞を作製。中立な遺伝子型であるAPOE3とクライストチャーチ型のアストロサイトを遺伝性アルツハイマー患者由来の神経細胞と共に培養した。
その結果、アルツハイマー病に特徴的な「タウタンパク質」の移動頻度について、神経細胞のみで発育した場合で最も高く、APOE3型アストロサイトはやや低く、クライストチャーチ型が最も低いことが明らかになっている。これにより、クライストチャーチ型はタウタンパク質の拡がりを鎮静する機能があると分かった。
研究グループは「この成果は、アルツハイマー病患者の神経細胞間での異常型タウタンパク質の拡がりに視点を置く新たな創薬の可能性を拓くもの」と評している。