信州大学の東城幸治教授らの研究チームは、ヒメオオクワガタが寄主であるブナの生存に大きく影響されていることを発見した。これは遺伝的多様性を理解する重要な知見であり、今後はブナとヒメオオクワガタの相互作用を詳細に評価していく予定だという。
ブナのみをエサとするブナ依存的な分類群を扱う研究はされておらず、ブナ林の分布がそれら生物の遺伝構造に与えた影響はこれまで検出されていない。そこで、ブナを食べて成長するヒメオオクワガタの地理的な遺伝構造の解明に取り組んだ。
遺伝の地理的まとまりを検出する解析を実施した結果、ヒメクワガタのミトコンドリアのグレードⅠとⅡの両遺伝系統ともに日本海と太平洋側の個体群の間で分化が認められ、先行研究におけるブナの系統分化と合致した。
約100万年前以降の氷期にブナ林が、長い期間日本海と太平洋側の沿岸部に分断されてヒメオオクワガタの遺伝的分化も促進したことが推察されている。
研究グループは「ヒメオオクワガタの地理的な遺伝的分化および遺伝的変異のパターンが寄主であるブナと合致することが明らかになった」とし「ブナ林の衰退が生息する生物種の遺伝的多様性に及ぼす影響を理解する上で重要な知見だ」と説明している。