熊本大学と鹿児島大学、東京医科歯科大の研究グループは時間経過で発光する「タイマー蛍光タンパク」という時間動態が観察可能な特殊なたんぱくを搭載した組み換えウイルスを作製し、HIVが細胞に感染し侵入した後のウイルス動態を詳細に観察することを可能にする新規感染系を確立した。
HIVは免疫不全を引き起こすウイルスで、未治療であると後天性免疫不全症(エイズ)に進行する可能性がある。現在、ウイルス複製を抑制する治療法があるが、未だ完全なHIV感染の治癒方法は見つかっていないため、感染予防策の研究活動や治癒を目指した治療法開発が世界的に進められている。
グループはウイルスの潜伏感染細胞がどのように生まれてくるのかを調べるために、タイマー蛍光タンパクを活用した「HIV-Tockyシステム」という新しいウイルス感染系の開発に挑戦。HIVが細胞に感染した後のウイルスの動態を詳細に可視化することに成功した。
研究で用いたタイマー蛍光タンパクは細胞内で、最初の4時間は青色に発光し、その後自然に発光が赤色に変化する性質を持つ。これにより、1細胞レベルで感染細胞内のウイルス動態を評価することが可能となった。
実際に、システムを用いた解析によって、HIV潜伏感染細胞が生まれてくる様子を分析したところ、感染後すぐに潜伏化した群と一度ウイルスの増殖が活性化した後に潜伏化した群を区別することが可能となった。
さらに、その2群ではその潜伏メカニズムが異なる仕組みで起こっていることも分かった。システムを用いて作製した潜伏感染モデル細胞を10種類以上樹立し、それぞれのウイルス全長配列及び組み込み部位情報を解析して決定している。これは鋭敏に薬剤効果を判定できることから、HIV 感染の治癒を目指す研究で有用なツールになるという。
研究グループは「HIV感染の治癒へ向けた、新たな研究ツールを提案するものであり、現在は治癒が困難であるHIV感染症の問題克服へ向け、一歩前進する研究成果と考えられる」と評している。