文教速報デジタル版

BUNKYO DIGITAL

文教速報デジタル版

BUNKYO DIGITAL
頭蓋底脳腫瘍の新たな手術法 腫瘍切除率98% 生活能力改善率30% 大阪公立大

大阪公立大学の後藤剛夫教授らのグループは、脳深部に発生する錐体先端部病変に対する外科的治療において、内視鏡を用いた新たな低侵襲手術法「内視鏡下前経錐体到達法」を開発。腫瘍切除率は約10割、手術後の日常生活活動能力の改善率3割、維持率7割という良好な治療成績を収めることに成功している。

脳の錐体先端部の病変は全ての脳外科手術の中で最も難しい腫瘍の1つ。錐体先端部に発生した症候性の病変や脳幹の圧排を伴う病変に対する基本的な治療は外科的手術による摘出で、良性病変に対してはさまざまな治療が行われているが、より有効的な治療法への意見は専門家間でも一致しないのが現状だ。

研究の対象症例は、2022~23年に同大の附属病院で「内視鏡下小開頭前経錐体到達法」による腫瘍切除を行った錐体先端部病変10例。腫瘍摘出度、合併症、神経機能、手術時間、出血量などについて、14年~21年に従来法「顕微鏡下前経錐体到達法」を用いて摘出した錐体先端部病変に対する治療成績との比較を行った。

内視鏡下小開頭前経錐体到達法では、耳前方の皮膚を約7センチメートル切開して直径4cm程度の小さな側頭開頭を行い、内視鏡下での操作によって脳幹や動脈、周囲の脳神経から腫瘍を安全に切除する。本手術法と従来法による治療群の比較では、腫瘍切除率及び術前後の日常生活活動能力に差はなく、手術時間の短縮と出血量の減少が得られた。

特に、平均腫瘍切除率は98.5%、患者の日常生活活動能力の悪化率はゼロであり、従来法と同等の切除率でより患者の負担を軽減した治療が可能な点は評価すべきだとしている。

新たな手術法は内視鏡を用いることで小さな皮膚切開と開頭のみで従来の顕微鏡手術と同様に病変が観察できるため、多くの神経や動脈、脳幹などの重要な構造物を損傷することなく腫瘍を摘出できる。高い腫瘍摘出度の維持や神経機能の温存を実現したという。

研究グループは「研究は、錐体先端部病変に対する低侵襲な内視鏡を用いた前経錐体到達法が患者機能を改善させかつ十分な腫瘍切除を可能にする有用な到達法であることを示した最初の報告だ」と説明。

後藤教授は「この到達法が国内外で普及することで、多くの患者さんに低侵襲で安全な治療ができることを期待している」とコメントしている。