名古屋大学の岡泰由講師らの研究グループは、2日酔いの原因化合物「アルデヒド」によりできたDNAの傷が治される仕組みを解明することで、遺伝性早老症や老化の原因を明らかにした。アルデヒドを除去する化合物を探すことで、治療薬候補を見つける可能性が高まりそうだ。10日付の国際学術誌「ネイチャーセルバイオロジー」で掲載されている。
研究ではホルムアルデヒドによって生じるDNAとたんぱく質が結合したDNA損傷「DPC」に着目。遺伝子の転写が行われるときにDPCが存在すると、RNAポリメラーゼによる合成が阻害される。
転写できなかったRNAポリメラーゼを同定した結果、遺伝性早老症である「コケイン症候群」に関わるCSBたんぱく質が、RNAポリメラーゼと結合していることが分かった。これは成長傷害や日光過敏、早期老化などを起こす病で、CSB遺伝子の変異で発症する。
CSB機能を欠損した細胞を解析した結果、転写領域のDPC修復が遅延すると分かった。
さらに、さまざまな阻害剤を組み合わせた実験により、たんぱく質分解酵素のプロテアソームが転写領域でのDPC修復に関与することが明らかになっている。
次に、アルデヒド分解に関する酵素ALDH2などが働かなくなる「AMeD症候群」モデルマウス (ALDH2とADH5の機能欠損)ではアルデヒド分解能が低下しているため、ゲノムにDPCが蓄積していると考えた。DPCを測定すると、AMeD症候群マウスの血液細胞では、DPCが蓄積していること、遺伝子転写が活発な領域でDPCが修復されていることが判明している。
最後に、転写領域でのDNA修復とアルデヒド分解能が低下したマウス (ALDH2、ADH5、CSBの3重機能欠損)を解析した結果、それぞれの単独機能欠損マウスと比較して、3重機能欠損マウスではより重篤な個体表現型 (短命、成長障害、造血不全)を示すことが認められている。
研究グループは「AMeD 症候群とコケイン症候群で見られる症状の原因が、転写領域でのアルデヒド由来のDPC 修復の過負荷 (AMeD 症候群)または欠損 (コケイン症候群)だと考えられる」と結論付けている。