大阪大学と慶應義塾大学の研究グループは、リスク事象の大きさを比べる尺度「損失幸福余命」を初めて用いて、発がん性化学物質と心理的苦痛の危険性の高さを比較した。得られた知見は長生きするための政策の判断材料として活用できそうだ。
大阪大学と慶應義塾大学の研究グループは、リスク事象による幸福度低下などで計算する尺度「損失幸福余命」を初めて用いて、発がん性化学物質と心理的苦痛のリスクの大きさを比較した。得られた知見は長生きするための政策の判断材料として活用できそうだ。
グループは日本に住む一般モニター5000人とがん既往歴のある850人を対象に、2022年7と9月にオンラインアンケートを実施した。
損失幸福余命を算出すると、発がん物質である「ラドン」、「ヒ素」、12年の「大気中微小粒子状物質(PM2.5)」、20年のPM2.5、心理的苦痛の損失幸福余命はそれぞれ0.0064年、0.0026年、0.011年、0.00086年、0.97年と算出された。これらのリスクの低減は環境政策上重要であるとされている。
がん罹患と幸福度の関連を解析した結果、がん以外の要因を調整しても有意な低下は見られないこと及びがんの種類、罹患歴、ステージは関連がないことを確認している。また、PM2.5のリスクは12~20年にかけて大きく減少し、近年の大気環境の顕著な改善を裏付けていた。
研究グループは「本研究成果の重要な意義は損失幸福余命を用いることで、環境中発がん性化学物質や心理的苦痛など、質の異なるリスクの比較を可能であることを示した点にある」とし「人々が幸福に長生きする社会を目指す政策の判断材料として活用できる」と説明している。