北海道大学の和田哲教授は、着底行動を示すイワナの稚魚が遊泳する稚魚よりも流されにくいことを実証した。水流により魚が選別されて進化に影響を及ぼしていることを示す先駆けとなりえる事例だという。これまで能動的な移動が注目されてきたが、受動的な生物の動きによる研究が発展していくと期待されている。
歩行や飛翔など、生物の移動による進化機構は「空間的選別」と呼ばれる。研究チームは河川生物がもつ身体や行動の特徴が、流下傾向に基づく空間的選別の産物であるという仮説をたてた。そして、日常的な水流で選別が生じるのかを調べるため実験を行った。
和田教授らは同大内の実験水路に段差を設置してイワナの稚魚の放流実験を実施。稚魚は5時間で回収し、9分間の動画撮影と体のサイズの測定をして、ある場所にとどまる稚魚が活発に動き回る固体よりも流されにくいのかを調べた。
イワナの稚魚には「着底タイプ」と「遊泳タイプ」が存在することを確認し、小型の着底タイプは遊泳よりも流下しづらく、その距離も短かった。一方、大型の同タイプは流下したときの距離が長かったが、自力で上流に戻れると推測されている。上流域では水底でじっとしている稚魚の比率を高める作用が働いていると示唆された。
河川の魚類は遡上できない高さの滝の上流域にも生息しており、流されて戻ることはできない。和田教授は「受動的な移動による空間的選別の進化は長期的に持続する可能性が高いと考えられ、安定した種内変異や種分化を導く可能性がある」と説明している。