東京大学と国立極地研究所の研究グループは、2021年に出発した南極地域観測隊にて波浪観測ブイを展開した。約1年に及ぶ観測期間中、南極冬季に形成された広大な海氷域を1000キロメートル伝搬する波浪を計測している。定着氷崩壊のメカニズムの解明が期待されている。
研究では海氷域を拡散する波浪を観測するため、日本とノルウェー、オーストラリアが共同で波浪ブイを開発。南極地域観測隊でブイを氷上に設置した。
調査で計測したうねりは、沖合の流氷域に侵入する前は波高4メートル程度と推測。うねりは減衰しながらブイまで1250キロ広がり、計測地点では最大波高は約8センチメートルだった。開発したブイが弱いうねりでも高感度で捉えられることが実証された。
また、研究グループは波浪が長距離に波及してエネルギーを失う中、どの程度の距離まで海氷盤を破壊する能力が保持されるのかを推定した。
その結果、およそ400キロ程度までは減衰しても海氷盤を破壊する能力があり、うねりであったことを裏付ける結果が解析で分かった。だが、氷厚、海氷強度など海氷の物性値の不確かさは大きいため、条件によっては伝搬距離が1000キロ近くに達しても氷を割る可能性があることも推測されている。
研究グループは「開発した自作波浪ブイによるさらなる観測で、氷厚、海氷強度などのデータとともに、長距離伝搬するうねりと定着氷の崩壊など大陸沿岸海氷域の変動機構の解明が期待される」と説明した。