文教速報デジタル版

BUNKYO DIGITAL

文教速報デジタル版

BUNKYO DIGITAL
2型糖尿病への集約的治療で歯周病が改善 東京医歯大教授らが明らかに 血糖管理による歯周ポケットの減少と歯周組織の炎症の改善

■ポイント□

◎2型糖尿病をもつ患者への集約的な糖尿病治療によって、歯周炎が改善することを初めて明確に 示した

◎口腔清掃状態に関わらず、血糖管理と歯肉の炎症が相関して変化することを明らかにした

◎糖尿病の治療で、医科歯科連携の重要性が高まることが期待される

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野の岩田隆紀教授と水谷幸嗣講師の研究グルー プは、九州大学、横浜市立みなと赤十字病院、総合南東北病院との共同研究で、2型糖尿病への集約的治療が、歯周病の炎症や検査値が改善することを明らかにした。この研究は文科省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、研究成果は、国際科学誌 Journal of Clinical Periodontologyのオンライン版で発表された。

【研究の背景】

糖尿病はわが国で1000万人が発症していると言われており、治療には、チームとして様々な医学的管理に取り組む必要がある。糖尿病の発症や進行と歯周炎が相互に関わりがあることは多くの科学的根拠によって示されており、歯科治療も管理の一部を構成している。

ここ数年では、2型糖尿病を持つ患者への歯周炎の治療によって、血糖値が改善する効果が実証されている。

しかし逆向きに、糖尿病の治療 が歯周炎を改善するかの検証については、ほとんど研究がなかった。このため、糖尿病治療で、内科と歯科との連携が不十分になっている場合があるという。

研究グループではこれまで、2型糖尿病によって血糖管理が困難になっている患者で、歯周炎の原因であるプラークの付着量に関わらず、炎症を起こしている歯周ポケットの総面積(PISA)が、ヘモグロビンA1ⅽ(HbA1c)と空腹時血糖値と有意な相関があることを報告している。

この関連に基づいた仮説として、血糖管理を改善させると歯周炎が軽減する可能性が考えられる。そこで、研究では2型糖尿病によって血糖管理が困難な患者を対象に、糖尿病の集約的治療が歯周炎 の状態に及ぼす影響を検討することを目的とした。

【研究成果の概要】

この研究は東京医歯大医学部倫理委員会、歯学部倫理委員会の承認を受け、被験者への説明と同意の上で実施した。被験者は同大医学部附属病院(当時)の糖尿病・内分 泌・代謝内科を2型糖尿病で受診し、血糖管理が困難で2週間の教育入院と継続的な外来診療を受け、歯科での検査も希望された71名のうち、緊急を要する歯科治療の必要がない51名を対象とした。

集約的な糖尿病治療として、すべての被験者は教育入院中に、薬物療法に加えて、カロリー制限のための食事療法と、定期的な運動を含む生活習慣の改善の指導を受けた。

退院後も外来患者として、引き続き治療と生活指導を継続した。また、研究開始時点、開始後1、3、6か月に糖尿病治療の評価を行う包括的な検査の一環として口腔内検査を行った。

その際に、歯周病に関する検査に加え、口腔衛生指導と歯肉縁上の歯面清掃を毎回行い、急性炎症などで早期の治療を必要とする被験者には必要な処置を直ちに行うことによって、研究対象から除外した。

その結果、6か月の観察期間終了後に解析の対象となったのは33名(平均年齢58.7±12.9歳)だった。平 均HbA1cは9.6±1.8%から、1か月後には7.9±1.2%に、6か月後には7.4±1.3%に改善した。また、口腔内の変化としては、歯の本数(平均 24.3±5.5 本)は全被験者で変化はなく、歯周炎のパラメータは6か月後に、口腔内全体の歯周ポケッ ト深さの平均は2.3±0.6mm から2.0±0.5mm へ、4㍉以上の歯周ポケットの割合は12.3±13.4%から6.8±9.3%へ、プロービング時出血(BOP)は25.3±18.8%から9.7±9.7%へ、PISAは 318.3±280.0㍉㎡~134.8±165.6㍉㎡へと改善した。

これらの変化を、歯周病の治癒に影響を与える因子である、喫煙、Body Mass INDEX(BMI)の変化、さらに歯へのプラークの付着量(プラークコントロールレコード)の影響を補正して統計解析を行ったところ、口腔内全体の歯周ポケット深さの平均、PISAの減少量は、HbA1cの変化と有意に相関していた。

この結果で興味深い点は、歯周組織の炎症に直結する因子である口腔清掃状態とは無関係に、糖尿病治療後に歯周病パラメータの有意な改善がみられたこと。この知見は、高血糖が誘発する歯周組織での炎症が、糖尿病治療によって除去されたという機序を支持するものと考えられる。

ただし、臨床的には、歯周炎の重要な病因因子である歯肉縁下歯石が本研究中に除去されなかったため、深い歯周ポケットや出血などの歯周炎の症状は依然として残っており、研究期間終了後に歯周病専門医が必要な歯周治療を行った。